大津地方裁判所 平成9年(わ)55号 判決 1997年7月17日
本店の所在地
滋賀県長浜市宮司町二七四番地の一
法人の名称
湖北エンジニアリング株式会社
代表者の住居
滋賀県長浜市小堀町九八番地の一〇
代表者の氏名
宮本玲子
本籍
滋賀県長浜市小堀町九八番地の一〇
住居
右同所
職業
会社役員
氏名
宮本至幸
生年月日
昭和二六年二月二三日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官梅田正樹、主任弁護人桐畑芳則、弁護人國久眞一(被告人両名関係)出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告法人湖北エンジニアリング株式会社を罰金一〇〇〇万円に、被告人宮本至幸を懲役一〇月に各処する。
被告人宮本至幸に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告法人湖北エンジニアリング株式会社は、滋賀県長浜市宮司町二七四番地の一に本店を置き、測量・設計業等を営む資本金二〇〇〇万円の株式会社であり、被告人宮本至幸は、平成九年五月一三日まで被告法人の代表取締役として、その業務全般を統括していたものであるが、被告人宮本は、被告法人の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 平成五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告法人の実際所得金額が四七〇八万二七四三円であったのにかかわらず、平成六年二月二八日、滋賀県長浜市高田町九番三号所在の所轄長浜税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五三一万一二九〇円であり、これに対する法人税額が一二六万三四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告法人の右事業年度における正規の法人税額一六六七万二〇〇〇円と右申告税額との差額一五四〇万八六〇〇円を免れ
第二 平成六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告法人の実際所得金額が六六四七万〇二九二円であったのにかかわらず、平成七年二月二八日、前記所轄長浜税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七〇五万七四九九円であり、これに対する法人税額が一七三万三八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告法人の右事業年度における正規の法人税額二三九二万四一〇〇円と右申告税額との差額二二一九万〇三〇〇円を免れ
第三 平成七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告法人の実際所得金額が五三九六万四九八九円であったのにかかわらず、平成八年二月二九日、前記所轄長浜税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四三七万三七〇四円であり、これに対する法人税額が一一五万六一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告法人の右事業年度における正規の法人税額一九四〇万八二〇〇円と右申告税額との差額一八二五万二一〇〇円を免れ
たものである、
(証拠の標目)
(なお、かっこ内は書証一枚目上欄記載の検察官請求証拠番号を示す。)
判示全事実につき
一 被告人宮本の当公判廷における供述
一 商業登記簿謄本(検乙第一号、弁第一号)
一 収税官吏作成の報告書(検甲第九号)
一 大西裕子の大蔵事務官に対する質問てん末書(検甲第一〇、一一号)
一 大西裕子の検察官に対する供述調書(検甲第一二号)
一 関谷隆義の大蔵事務官に対する質問てん末書(検甲第一三号)
一 松村順子の大蔵事務官に対する質問てん末書(検甲第一四号)
一 太田富二の大蔵事務官に対する質問てん末書(検甲第一五号)
一 伊藤信義の大蔵事務官に対する質問てん末書(検甲第一六、一七号)
一 戸田秀和作成の供述書(検甲第一八号)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(検甲第一九ないし三三号)
一 被告人宮本至幸の大蔵事務官に対する質問てん末書(検乙第三ないし九号)
一 被告人宮本至幸の検察官に対する供述調書(検甲第一〇号)
第一の事実につき
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲第二号)、証明書(検甲第五号)
第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲第三号)、証明書(検甲第六号)
第三の事実につき
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲第四号)、証明書(検甲第七号)
(法令の適用)
被告人宮本の第一ないし第三の各行為は、法人税法一五九条一項に該当し、また同人の行為は被告法人の業務に関して行われたものであるから第一ないし第三の各行為につき、被告法人に同法一六四条一項、一五九条一項を適用し、被告人宮本につき所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人宮本につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、また被告法人につき刑法四八条二項により罰金額を合算した範囲内で処断するところ、本件犯行は、測量、設計等の仕事を中心に順調に業績を伸ばしていた被告法人が、高額納税法人として発表されるや得意先などから値引きを要求されるようになったり、同業者の反発を買うなどの思わぬ反響があり、しかも同業者らが脱税まがいの申告をして贅沢をしているとの風評を聞いて被告人宮本が正直に申告する意欲を失い、従業員に指示して特定の売り上げを帳簿から全部除外し、あるいは架空の給与等の経費を計上するなどして三年間に合計五五八〇万円余の法人税をほ脱し、仮名預金口座に留保した、という事案である。
ほ脱額が少なくないこと、ほ脱率は三年間平均で九三パーセントに上ること、発覚前に帳簿の隠匿をはかるなどしていることを考慮すると犯情はよくないと認められる。
しかしながら、被告人宮本の脱税のための方法は、脱税を企図した平成五年から所得額を極端に圧縮し、正確な裏帳簿を作成しているなどいささか単純なものであったこと、重加算税等合計一億五〇〇〇万円余を納付したこと、裁判所の勧告に従って被告法人が一〇〇万円、被告人宮本が五〇万円をそれぞれ法律扶助協会に贖罪寄付をしたこと、再犯を防止するため新たな税理士に依頼して経理体制を強化したこと、被告人宮本にこれまで前科前歴はなく前記動機を形成したのは一時的なものと考えられること等の被告人らのために酌むべき諸情状もあるのでこれらを考慮して、被告法人を罰金一〇〇〇万円に、被告人宮本を懲役一〇月(検察官の求刑・被告法人につき罰金一五〇〇万円、被告人宮本につき懲役一年)に各処するとともに、被告人宮本に対して刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 安原浩)